Power BIを使いこなすためには、Power Query及びData Model / DAXといった知識が必要不可欠となります。Power BIに限らず、どのBIツールを使うにしても、学習コストが発生するため、数か月あるいは数年という単位で常に学び続けることは珍しくありません。これまで話(差別化要素1~8まで)をしてきた通り、Power BIを使うメリット(差別化要因)は様々なあるものの、学習コストを最小化させることができれば、メリットは非常に大きいと言えます。そこで今回は、Power BIテクノロジーを学ぶことが一石二鳥であることを紹介していきます。
- ツール費用(無料)
- モデリング機能(データモデル、複合モデル)
- ETL機能( Power Queryによるステップ記録機能で完全自動化)
- 「Excelで分析」機能
- 時系列操作関数の扱いやすさ
- 関数言語(Excelから継承した関数の数々)及びクエリ言語
- 計算エンジン(SSAS Tabularモデルをベースとした強力な分析エンジン)
- Microsoftの他のサービスとの連携
- 1つのテクノロジー(BIとしてのExcel)
- SaaS型BIソリューション
Excel = BIという事実
よく勘違いされることの1つに、「ExcelがBIツールに比べ劣っている」という間違った意見があります。「脱Excel○」や「Excelからの脱却」等の記事を見るたびに思うのは、
ことです。
言い換えると、データ分析に際して、ExcelにはExcelの役割があり、BIツールにはBIツールの強みがあるということです。Excelに精通した人がBIの世界に足を踏み入れた場合、ExcelとBIの両方に対して強み・弱みを知っているのが通常です。つまり、どちらかが必ず優れている、というのではなく、お互い足りない部分を相互補完し合えるよう、使い分けることがベスト・プラクティスになるわけです。
上述した「脱Excel○」や「Excelからの脱却」等の記事はほぼ間違いなく、Excelについてよく知らない人、あるいは”経済的便益のために執筆”した人ではないかと思っています。そのような人達に対して、
ExcelもBIツールですけど、知っていましたか?
と質問してみると面白い回答が得られるかもしれません。
Excelに搭載されたBIテクノロジー
実は今のBIテクノロジー(Power QueryやData Model / DAX等)はPower BIからスタートしたものではなく、Excelからスタートしたものになります。詳細は下記記事でも紹介していますが、いわゆるセルフサービスBI*1が登場し、Tableauといった独立系ベンダーがビジュアル分析をメインとして拡販を行っていた時期に、MicrosoftはExcelの中に分析機能を拡充させるためのテクノロジー(Excel Power Pivot)を開発・搭載していました。
当時はエンタープライズグレードのBI構築を行っていたBIプロフェッショナルに歓迎されていましたが、「ExcelはExcel」という既成概念やツールに対する認知度等があまりにも低かったこともあり、Excelに搭載されたこの機能がセルフサービスBIとして日の目を見ることはありませんでした。そうこうしているうち、ライバルであるTableauはツールの使いやすさ、ビジュアルの良さ等を武器に、莫大なマーケティング費用をかけ、セルフサービスBIとして業界トップの地位を築いていきました。
MicrosoftとしてはExcelに素晴らしい機能を搭載していくことでユーザーベースが増えていくことを期待していたかもしれませんが、結果として上述した要因に加え、更に根深い問題を抱えていました。それは、Excelを含むOfficeアプリケーションの開発サイクルが3年間に1回の大型アップデート(=代理店等を経由した売り切りのビジネスモデル)であったことにあります。今でこそ完全にサブスクモデル(SaaS型)に移行していますが、そのような戦略でなかった時代はパッケージ売りがメインであったわけです。
Excel 2007→2010→2013→2016→2019
見ての通り、Excelは3年おきにその名称を変更しており、これは開発サイクルが3年おきに大型アップデートを行っていることを意味しています。Excelは実に5億台以上のデバイスにインストールされており、世界で最も使用されているビジネスアプリケーションです。BI機能をExcelに搭載するアイデアは悪くはないが、何か不具合が起こった場合、BIを使用していないユーザーからのクレームやそれによって被る損失が計り知れないものになると予想されます。
更に、セルフサービスBIはユーザーボイスが大事であり、ユーザーが不満に感じていること、追加してほしい機能に対してベンダーがそれを実現していく、という対話形式が基本のため、3年に1度の大型アップデートという時間軸では顧客を満足させることはできないことは明らかです。とはいえ、MicrosoftはPower Pivotテクノロジー(Tabular Model)をExcelに搭載しており、Power BIのネイティブ言語であるDAXはそこから生まれています。
ライバルに対抗するため、Microsoftは2015年にスタンドアローン型のBIツールを発表して更新サイクルを1ヵ月という非常に短いベースに短縮し、毎月新たな機能追加や改善を行ってきています。それが今日のPower BIとなりますが、幸か不幸か、Power BIで使用されるテクノロジーはExcelから受け継いだものであり、これが今回の記事のメインテーマである
「1つのテクノロジー」を学べば、2つのツールで利用できる(一石二鳥)
という意味になります。
Power BIとExcel
Power BIとExcelはどちらもBIツールであり、どちらか一方のツールでテクノロジーを学べばほぼ両方のツールを活用することができます。下図はPower BIのデータビューとモデルビューの画面ですが、Excelとほぼ同じになっているのが分かります。
使用感は微妙に違いますが、インターフェースやテクノロジーがほぼ同じであるため、どちらをメインに習得しても問題はありません(※ 個人的には、Power BIにはExcel Power Pivotをインポートする機能があることから、Excelで初期的なモデリングを行い、DAX等のメジャーはPower BIで記載したほうがやりやすいと感じています)。
メジャーを記述するやり方が少し異なりますが、使用するDAX関数は殆ど同じ(※ Power BIのほうがより多くのDAX関数を使用可能)であることから、大きな困難はないものと思われます。
【Power BIでメジャーを追加する】
【Excel Power Pivotでメジャーを追加する①】
【Excel Power Pivotでメジャーを追加する②】
このように、 Power BIとExcelは同じテクノロジーを有しており、1つを重点的に学べば両方のツールを最大限に活用することができるようになります。機能的な違い(使用可能なDAX関数が異なる、作成可能なグラフが異なる、操作性等)やクエリパフォーマンス(処理速度)の違い等はあるものの、基本的に同じであると考えて頂いて問題ありません。ただ、どうしても違いを挙げてほしいというのであれば、
Power BIはビジュアル分析(チャートによる傾向把握等)に優れており、ExcelはPivotテーブル分析に優れている
と覚えておくと良いと思います。殆どの場合、Power BIのほうが優れているのですが、Excelでは数字の正誤確認を行う場合に使用する機会が多いです。
まとめ
- Excelは世界で最も使用されているビジネスアプリケーションであると同時に、BIツールである
- Power BI or Excelという選択ではなく、Power BI and Excelという選択が最適である
- テクニカル・コンテンツについて、BI構築に必要なスキル(Power Query、Data Model / DAX)はどちらのツールでも学ぶことができ、一度習得すれば両方のツールで有効活用ができる
- 「どちらのツールが優れているか」という議論ではなく、どちらのツールを使用すれば自身のニーズが満たされるかを考えるべきである
*1:IT部門の介入を極力減らしつつ、ビジネスユーザーが自分たちで適宜データの抽出・成形を行い、データ分析を行うBIスタイル