今回は今まで何回も外部企業向けにPower BIによるBI導入をしてきた経験について話してみたいと思います。前提条件として以下数項目を念頭に入れて読んで頂ければと思います。
- 記事の内容は個人の備忘録的なもの
- セルフサービスBI*1寄りの構築である
- 構築に関するコンテンツ以外に、BI導入に関する営業コンテンツを含む
- 「1人で」という定義は社内営業からバトンタッチを受けてから構築完了までの話
- 契約関係・初期的営業以外は全て1人で担当
- BI導入の最終目標は、対象企業が今後自分たちでBIを運用できるよう、社員のスキルアップも同時に実現していくこと
なお、BI構築に関する詳細マニュアルではなく、コンテンツ的には「BI導入プロセスにおけるあれこれ」というものになりますので、上記について興味ある方、かなりの長文でも大丈夫な方だけ、読んで頂ければと思います。
BI導入プロセス
BI導入を検討する企業向けにPower BIとExcelベースのBIテクノロジーを活用したDXの一環としてのサービスを数年前から担当しています。導入プロセスはざっくり見て下図のようになります。
BI導入は大きく分けて3つの大きなプロセスに分解され、
① BI営業・契約
② BI導入の準備
③ BI導入・トレーニング
の順番で進んでいきます。
① BI営業・契約
通常、BIプロジェクトには複数の人が各担当分野で専門性を発揮して顧客に対して価値提供を行いますが、今回は全て1人で担当をしたリアルなお話です。①は営業がメインとなりますが、営業と同時に市場調査等も行うことが必要でした。
営業に絞って言えば、最初は顧客ベースがないため、何からスタートすれば良いターゲットが定まっていなかったのですが、徐々にパターンが分かってきて、最終的には事業会社向け、そして金融機関向けの営業資料を2つ作ることになりました。大きな差はないのですが、金融機関が受け持つ顧客に対してBI導入を紹介しやすいよう、事業会社向けのものよりもややシンプルに作っています。これまでシステム会社とのコネクションがなかったこともあり、営業先は主にこの2つのルートに。
次に営業スタイルですが、オンライン営業とオフライン営業の2つのアプローチで進めていきます。オンライン営業とはインサイドセールスで、ビジネスマッチングサービスである「ITトレンド」のBIツールというセクションに3ヵ月程度、Power BIによるBI導入を掲載しました。
これにより、BIツールに興味を持っている企業からの問い合わせが増え、導入支援に向けて案件が増えるだろうと見込んでいました。コロナの時期であったこともあり、件数が大幅に減ってしまっていた顧客訪問が中心であるオフライン営業をカバーできるかもしれないという想定です。
ここで効果測定のため、同サービスをPower BIで可視化してみようと思い、以下のようなダッシュボードを作って「リーチ率」というKPIをモニタリングしていったところ、非常に興味深いことが分かりました。
※ リーチ率 = 対象企業に対して、電話応対できた件数( = リーチ済÷資料請求数)
このダッシュボードから得られた最終的な結論は・・・
ITトレンドのBIツールに広告を載せることは費用対効果が良いとは言えず、当該サービスを利用しないほうが良い
という、
BI拡販のつもりが、BIで結果を可視化してみたらサービスを利用しちゃいかん!という何とも悲しいオチになってしまいました。実質、理由はいくつかありますが、最も大きなものとして
- 単なる興味本位での問い合わせが多く、案件確度が低い問い合わせが殆ど
- 問い合わせ先と自社の他のビジネスとのシナジーが低い
の2つが顕著だったのです。社長に結果報告を行ったところ、正式に当該サービスへの投資を停止することとなりました。自分が始めたことですが、全く悔いはありません。なぜなら、Power BIで可視化して、その結果をデータが証明してくれたので、良い失敗事例であったと前向きに捉えています。
一方、訪問営業(オフライン)や営業チームによって引き合いのあるオンライン営業はTeamsやZoom等を使用して継続的に行われ、確度の高い先に対しては会社訪問を実施してきました。その甲斐があってか、顧客と会う頻度が高いほど、案件成立への確度も高まってきました。オンライン面談や訪問先ではとにかくニーズ及びそのニーズをPower BIがどのような形で解決できるかに焦点を当て、先方のあらゆるキーパーソンに対してとにかく分かりやすく、キーワードベースでざっくりBIについて紹介を行いました。
例えば、以下のようなキーワードを出せば、「BIとは何か?」について大まかに理解してもらえるようになります。全て重要な要素であるが、単なる可視化ではなく、ビジネスへのインパクトに焦点を当てて話を進めていくことを最重要視しました。
ここである程度BIについて理解してもらえると、いろんな質問が出てきます。
- 導入期間はどれくらいか?
- どのように進めていくのか?
- 費用はどれほど掛かるのか?
- 何人でやっていくのか?
等、想定できる質問が沢山出てきますので、一歩踏み込んだ話をしていきます。それが下記「BI導入プロセス解説」になります。
BI導入における手順ですが、ざっくりとしたプロセスを顧客に提示し、イメージを持ってもらいます。
そして、話が前後する可能性はありますが、BIについて更に理解してもらうため、予め作っておいたBIデモを見てもらうことで、Excelだけでの業務との違いやBI導入によって得られる圧倒的な効率化の実現等を体験してもらいます。
デモについては様々なユースケースを用意しており、例えば以下のようなものがあります。
ここまで来れば、BIについて詳しくなくとも殆どの企業が興味を示してくれます。特に興味を示してくれる企業には更に無償でその会社のデータを使って、プロトタイプBIダッシュボードの構築を行うことを提案します。自社データがどのように活用できるかを見れることはBI導入がまだの企業にとっては非常に魅力的であるのは言うまでもありません。
いよいよ、殆どの企業がGoサインを出す、と誰もが思うでしょうが、実際のところ、各社独自の悩みを抱えており、そう簡単に決まるものではないというのが現実です。以下、それらをまとめてみました。
- データ運用成熟度が低く、BIに投入できるデータが不足している
- 基幹システムの刷新が必要で、BI導入はそれと同時に行う
- 社内で他のプロジェクトが同時進行中であり、優先順位を付ける必要がある
- Microsoftとは競合する環境(例:AWS等)となっている
- (金融機関)自行は反応が非常に良いものの、顧客の反応が鈍く、時間がかかる
BI導入に近いところで仕事されたことがある方にとっては俗にいう「あるある」ですが、こうした事由でなかなか導入に踏み切れない会社が非常に多いと感じています。逆に言えば、上記のような制限がない企業でPower BIがビジネスにもたらすインパクトを理解できている場合、迷うことなくBI導入に踏み切っています。ここでようやく、営業の最終段階である契約締結にたどり着くのですが、ここまでの道のりは非常に長く、何しろまだBI構築は何も始まっていません。
ここで本記事のタイトルの「思ったこと」について、以下のような結論を出しました。BI導入が決まるかどうかは、主に以下2つの要素に左右されると思われます。
- 喫緊のニーズの有無
- 意思決定ができるキーパーソン
この2つの要素は過去数年間BIの営業をやってきた中でたどり着いた結論です。
1については
BIを入れないと、今後業界内で負けてしまう
という強い危機感を会社が持っているかどうか、2については、
”絵に描いた餅”を具現化する人がいるかどうか
すなわち、キーパーソン(多くの場合社長クラス)がいるかどうかにかかっています。当然、予算の話も出てきますが、結局のところキーパーソンが意思決定をしますので、予算の話はそこに含まれる要素になります。
② BI導入の準備
もはや営業が本業ではないかと思われるかもしれませんが、私は営業ではなく、立派なBI開発者です。自分ではBIアナリストという怪しげなタイトルを付けたりしていますが、営業よりもテクニカルなことを好む人間です。ここから先はBI導入が決まった場合、実際に何をどのように進めていくのかについて話をしていきます。
具体的に開始する前、まずはプロジェクトのチーム編成が必要になります。BI導入は構築サービスを提供する側と企業側の両方から人員を募ります。
サービスを提供する側は1人ですので、プロジェクトマネジメント、プロジェクトの実行等、基本的にBI導入に関わる全ての作業を行います。一方、企業側からは少なくとも以下の人員をそろえることが望ましいと伝えています。
当たり前のことですが、上記3レイヤーを全て揃えることができれば、会社全体で異なるファンクションにおけるBI活用ができるようになります。IT部門の方であればBIに対する抵抗感は最小限に抑えられますし、BI導入後のメンテナンス業務も担うことができます。更に、全社規模でユーザーに対する教育等を行うことも想定できますので、IT/システム担当がいる場合、必ず1人は入って頂くように伝えています。
他の部署からも人を募っている理由は上述の通りですが、会社としてのリスクヘッジにも役立ちます。BI導入は非常にテクニカルな側面が強いので、1人だけ出来ても、その人が会社を辞めた場合、数字が見れず意思決定が滞ってしまうといった大きな打撃を受けかねません。それゆえ、BI導入プロジェクトの開始前にこれらのリスクを最小限に抑えることが重要であるわけです。
なお、企業規模によっては担当者の役割が異なる場合があるが、一人でBI導入を行うと、「企業規模:小」のようなケースになります。そのような企業としては担当者の負担は大きくなりますが、個人的には全てを押さえておくことは自分自身の成長にもつながりますので、私が企業側の担当者であれば、全てを学ぶつもりで臨んでいたと思います。
プロジェクトチームが結成できたら今度はその他の準備に入ります。
- BI導入用テンプレート
- 使用ツールの確認
- データに関する基礎確認
の3つになります。
BI導入用テンプレートはリソースハブのような役割でExcelベースになっていますが、ファイルの中には参照できる様々な情報が網羅されています。プロジェクト参加メンバーの基本情報、WBS*2やPower Query、Data Model / DAX等に関する自己学習用の参照先、デモ用BIテンプレートへのリンク、各種テクノロジーの学習に関する進捗確認表等が入っています。
テンプレートがある場合、BI導入の初動がスムーズに進むだけでなく、今後より良いコンテンツにしていくための新たな気づき等を随時更新していくことができるようになります。
次にBI導入に際して非常に重要な「使用ツールの確認」を行います。Power BIの導入に際して必要なツールはそれほど多くはなく、主に以下のようなものになります。
BI導入を始める前、殆どの方は4以降のツールを知りません。実際、4以降のツールを使用できるようになるためにはData Model / DAX等の知識が必要であったり、基礎を身に着けてからでないと難しいので、基本的に最初は1~3をフル活用していきます。ここからプロジェクト参加メンバーのハードウェアに関する基礎情報を埋めていきます(下表)。
セルフサービスBIになりますので、自分のパソコンを使うことが殆どです。そのため、パソコンのスペックがあまりにも低い場合、BI導入に際してのボトルネック(クエリパフォーマンスが遅い等)となってしまうので、企業側に対して対象者のパソコンの買い替え等をお願いすることもあります。
上表からパソコンのハードウェアに関するスペックを確認した後、
CPUのパフォーマンスチェック
を行います。Power BIはRAMのサイズ以外に、CPUのパフォーマンスも非常に重要であり、このチェックをPower BIとDAX Studioで行います。
具体的には、適当なデータモデルを作成し、そこからPower BIの「外部ツール」からDAX Studioに繋げます。下記ソースコードを張り付け、下図に記載の指示に従って実行すると、CPUのパフォーマンスを見ることができます。
結果が10秒以内であれば使用しているパソコンは性能的にかなり高いと考えて問題ないでしょう。ちなみに、ノートPCの場合、コンセントに電源を繋げた状態で測定しないと、バッテリーの管理により、測定パフォーマンスが落ちてしまう可能性があります。
上図の測定結果を見ると、Totalが8,213ms(8.2秒)であることが分かり、パソコンスペックはそこそこ高いことになります。
準備編の最後に行うのが「データに関する基礎」についておさらいをすることです。データについて知っているという企業でも、もう一度データとは何か、キレイなデータと汚いデータの違い等についてしっかり認識しておくことが重要です。これらについては以前の記事にて紹介していますので、そちらをご参照下さい。
このセクションで思うことは、
テンプレート(準備)は非常に大事
ということです。仕事ができる、あるいは早い人の特徴は、テンプレートを持っているかどうか、というのがかの有名なひろゆきさんが言っていた言葉ですが、まさしくその通りだと感じています。いきなりBI導入に進むのではなく、ここで準備運動をしてから進めていくのが良いウォームアップになるというわけです。
③ BI導入・トレーニング
ようやくここまで来て、本格的にBI導入に進めることができます。冒頭に
対象企業が今後自分たちでBIを運用できるよう、社員のスキルアップも同時に実現
と書きましたが、プロジェクト参加メンバーに対する(冗談ですがハードコアな)トレーニングが欠かせません。Excelユーザーであれば誰もが苦しむデータ処理問題に対してはPower Query、データ分析が思うような切り口で出来ない問題に対してはData Model / DAXが悩みを解決してくれます。
冒頭にあるぐるぐるマークの図(上図に再表示)はこれらを示したものですが、この2つのトレーニングに加え、重要な要素として「ソースデータ分析」が入ってきます。「ソースデータ分析」については別途記事を書くかもしれませんが、簡単に言うと
BIに使うデータの洗い出し
を意味します。非常にシンプルなワードですが、実はこれがBI導入を成功に導くために非常に重要な作業となるのです。「ソースデータ分析」の役目は主に以下のものとなります。
- BIに必要なデータの有無の確認
- 上記データを基に、BIにて構築可能となる必要なビジネスロジックの再確認
- 必要なデータのみを抽出した最適なデータモデルの構築
- ニーズ別にBIレポートの構築
上記1については、下図が分かりやすいかと思います。
”デジタル資産の棚卸”を行うことで、ニーズに対する詳細なヒアリングを実施することが可能になります。多くの場合、自社にどのようなデータがあり、それをどう活用すればビジネスにプラスの影響をもたらすことができるかを認識できていないことが多いようです。
「ソースデータ分析」はプロジェクト参加メンバー全員と協議を重ねることでこれらを洗い出すことが可能となるだけでなく、テクニカルなトレーニングを重ねることで自分たちで「ソースデータ分析」ができるようになり、実務データを取り扱うことからBIテクノロジーに対する理解度が一気に深まる可能性が高くなります。
なお、下記は一例ですが、Phase別に分けてビジネス寄り、テクニカル寄りコンテンツに分けて進めていくのも手です。
いずれにせよ、「ソースデータ分析」が早い段階で出来るのであれば、それを継続していくことが重要です。
「ソースデータ分析」が一段落した場合、そこから一気にBIにおけるデータモデルの構築が可能になります。理由は、
- 「ソースデータ分析」を行ったことにより、ニーズがよりクリアになってくる
- 「ソースデータ分析」= データモデルに仕上げるための再利用可能な情報(メタデータ)
の2つが挙げられます。前者はコメント済ですが、後者についてはPower Queryからカスタム関数を作ることが可能であり、一発でデータモデルに必要なテーブルを生成することができます。
ちなみに、このステージまでくると、開発者レベルのことを行っていますので、オンサイトでのグループトレーニングが一番効果的となります。オンサイト以外の場合は週に2~3時間のTeams会議を行い、コンテンツを全て録画しておくことで復習用マテリアルとしても活用できます。Teamsをうまく活用すれば共有環境も簡単に構築できますし、何より必要な情報が同じところに集まっていますので、作業効率が一気に高まります。
ざっくりですが、本格的に手を動かして行う導入プロセスは上図のイメージです。ここでKPIの設定、要件定義の変更有無の確認、レポートデザイン、成果物のプレゼン等を最終段階として実施していきます。
最後のセクションでしたが、思うことは以下数点。
- BI関連のトレーニングは必須(粘り強さが必要)
- 要件定義は最初とかなり異なってくる可能性も(アジャイルな開発が必要)
- Power Queryを学ぶだけでも既存業務にかなり応用できる
- 全員がデータを見ながら「ソースデータ分析」を行うことでBIレポートに対するイメージがより明確になる
- スモールスタートから今後、自社で運用を開始した際のアイデアが出てくる
今回紹介したBI構築はセルフサービスBIであったこともあり、エンタープライズBIの構築とはまた違います。後者は今回紹介した内容に加え、セキュリティ、スケーラビリティ、コスト、Power BIテナント管理等、IT部門が深く絡んでくることになります。それゆえ、多数のユーザーを抱える企業である場合、BIを確実に展開することが一層複雑になってきます。
まとめ
非常に長くなってしまいましたが、これがセルフサービスBI導入における全貌となります。最後に感想を述べるとしたら、
BI導入を1人でやろうとすると滅茶苦茶大変
というのが正直な気持ちです。特に営業もやっていたことや、トレーニングと要件定義に基づくBI構築を同時に進めていくのは、必要資料とある程度ビジネスに対する理解がないと到底できません。トレーニングはプロジェクト参加者全員が理解できるコンテンツ作りが必要になりますし、他人に教えるということは自分が数倍の知識を持っていないとなかなか出来ないものです。
ただし、1人で最初から最後までやってきたからこそ、全てのプロセスに熟知し、段階別に何をしなければいけないのかというベストプラクティスみたいなものを得ることができたのも事実です。
とはいえ、やはりチームで出来るならその方がいろんな意味で負担は減りますし、相談も出来たりするので、効率性やカバー領域という意味で更にいろんなことが出来たと思います。