テクテク日記

テクテク=テクノロジー&一歩ずつ(テクテク)

“挫折と栄光”、組織でPower BIを最大限に推進するために⭐️

一年に一回の長編ブログということで、今年は自分がPower BIに出会ってから、どうやって苦しみ、絶望の中から一筋の光を見出してPower BIにオールインを決めたかについて、お話したいと思います。

今でこそ、Power BIの製品チームとして日本・海外企業向けにPower BIの推進・導入に関するアドバイザリー業務をしていますが、かつてはPower BIは使えない代物だと諦めていた時期もありました。テクニカルな話は殆ど出てきませんが、「Power BIを始めたばかりで不安だ」、「初学者ではないけど、いろいろ悩んでいる」、「社内でPower BIを広めていきたい」という方の参考にして頂けたらと思います。

なお、昨年は同じ時期にややバズ(だったかもしれない)記事も良かったら一読ください。

アナリストとしてのキャリア

Power BIを活用されるシーンは人それぞれとなります。今回お話する内容は少し皆さんと異なるかもしれませんが、一つ覚えて頂きたいことは

データさえあれば誰でもPower BIで付加価値を生み出すことは可能

ということです。私がPower BIを使い始めたきっかけは大学時代や前職までの職種が大きく影響しており、大学時代ではコーポレートファイナンスを履修し、Goldman Sachs派遣社員としてインベストメント・バンカー向けにアナリストレポートの修正をしていましたが、社会人になってからはGEで財務アナリスト(FP&A)、後に前職で在庫評価アナリストをやってきました。

アナリストの仕事

元々は金融専攻で投資銀行のアナリスト志望でしたが、Goldmanのシニアアナリストに「今週は10時間しか寝ていない」と言われたことに恐怖を感じ、投資銀行ではなく、別の世界でアナリストとして頑張ることにしました。

Microsoft公式Docsにも記載されている通り、アナリストという職種はまさにPower BIがターゲットとする層ですが、当時は2000年半ばの話でしたので、まだExcel Power Pivotも生まれていない時代でした。

アナリストの仕事ですが、それほど難しい仕事ではないと認識しています。

  • 数字は必要だが、数学は必要としない
  • 基本的に差異分析(Variance Analysis)とその解釈
  • 会計知識(Corporate Finance)はある程度必要

こんなところでしょうか。重要なのは、結果をしっかり説明できることで、分析は主に差異が大きいところにフォーカスされます。

Excel至上主義

どの業界でも同じですが、アナリストは基本的にExcelで数値分析を行います。Power Queryが登場する前まで、手動で集計したり、マクロを組んで自動化を行ったりする必要がありましたので、特にExcelのショートカット機能(例:Ctrl + C > Ctrl + V等)を如何に多く覚えて、かつ使いこなせるかが業務効率アップに繋がっていました。

値貼り付け: Ctrl + C > Alt + ESV + Enter

はアクセスキー(Altをクリックするとリボンの各項目にアルファベットが出現するパターン)を使ったショートカットであり、当時最も使用していたと記憶しています。今のExcelでも使うことは可能ですが、もはやAlt + Eを押した瞬間、下図のような表示が出るくらい、昔のショートカットは今でも引き継がれています。

そんなこんなで、2005年頃はひたすらExcelを使いこなせるよう、Tipsを学んでいた時代でした。この時期、BIという言葉をまったく知らなかったですが、BIの世界ではMicrosoft一強だったところにセルフサービスBIの先駆者Tableauが登場し、BIの業界リーダーであったMicrosoftが追いかける立場になってきました(詳細は下記をご参照)。

在庫アナリスト

GEを卒業し、米国でNo1の在庫評価の専門会社に入りました。ここで前職の経験が大いに役立ち、社内向けExcelレーニングをはじめ、分析手法等を社内で共有する毎日を過ごしました。

在庫評価はGEでの財務アナリスト時代で取り扱うデータよりも細かいデータを処理する必要があり、iPhoneがこの時期に登場し、スマートフォンブームがやってきたこともあり、

スマートファイル

という超絶微妙なネーミングの社内トレーニングを開催したりしました。

意味不明に最後のスライドに「Good Luck」とか入れて、今となっては非常に恥ずかしい話ですが、当時はこのやり方が私の中でのベストプラクティスでした。更に、汎用的に使えるExcel分析テンプレートとして、Power BI?と思わせるようなマニアックなこともやったりしました(※テンプレートなので、図と項目名は一致していません)。

Power BIとの出会い

限界を知る

ここまで、特に大きな挫折はなく何とかやってこれましたが、限界は突然やってきました。2012年半ば、社内でも大きな在庫評価案件を担当することになり、米国本社からもシニアアナリストを日本へ派遣する等、大がかりな評価プロジェクトとなりました。特徴的だったのは、とにかくファイル数やデータ量が多く、分析ロジックも完成品・仕掛品・原材料等、多岐であったため、社内でも私以外に多くの人に協力してもらいました。しかし、その後毎月にわたって、洗い替え評価をする必要があったため、

データ集計の自動化

が必須でした。

ところが、マクロを組んで自動化をしようとすると、途方もないコードを書くことになり、何より引継ぎがまず不可能であったことから、このシナリオは最初から選択肢として考えられなかったわけです。

在庫評価は通常、1.5~2ヵ月という期間で仕上げていくのですが、この案件に限っては毎月行う必要があったこと、そしてデータ集計・分析・レポートアウトまでほぼ毎回10営業日という短期間契約であったこと、お客さんからのデータ提出が遅れた場合、実質3~5営業日しかなかったという限界ギリギリを試される案件でした。集計ロジックが複雑であったこと、共同作業するのに社内リソース不足していたこともあり、”鬱寸前”になりかけた日々でした。

そこに一筋の光が差し込んだのが、2016年末にPower Queryを本格的に学び出した時でした。下記2冊のPower Queryに関する本を読みながら実務で試していった結果、地獄の日々からようやく解放されました。


Power Query for Power BI and Excel
今となっては私の上司であるChrisさんの書いた本


MASTER YOUR DATA

同じく、Power Queryのバイブルの1つであるKen Pulsさん(コンサルタント)とMiguel Escobarさん(現MSのPower Queryチーム)によるこの本(初版: M is for (DATA) MONKEY)も非常に役に立ちました。

この頃から私は「スキルアップは自己責任」という言葉をたまに口にするようになりましたが、自分で自分を救うスキルを習得することが如何に重要であるかを痛感しました。

ちなみに、Power QueryはExcel関数やマクロを使った場合よりもメリットは高く、かつ習得時間が短いことが特徴で、初めてという方は下記シーリズから読んで頂けると分かりやすいかと思います。

Power Query(PQ)を使用し始めたことで殆どのマニュアルプロセスを高精度で自動化させることに成功しました。さすがにPower Queryを勉強しながら、満足できるクエリを組めるようになるまで約1ヵ月は掛かりましたが、年末を利用して何とか間に合わせることができ、その後データ統合(ETL)の効果を測定した結果、最大で95%も新たに時間を作り出すことができました。注目すべきは時間効率がアップしただけではなく、分析用のファイルもPower Queryのおかげでサイズが半分となったことです。ファイルサイズが減るということは余計なデータ、数式が減ることを意味し、ETL後の作業効率もアップすることを意味します。

この時(2016年末)、実はまだPower BIもPower Pivotも使っていなかったため、単純にExcel Power Queryだけで運用していました。後にNo Power BI, No Lifeとまでなりましたが、Power BIについて当時は(個人的な感想ながら)使い勝手がそれ程良いとは言えない製品でした。

本案件は後にPower BIを使って要因分析、金融機関や対象企業向けのレポートアウト用に本格的に使用されるようになり、分析ツールとしてはPower BIをこれでもかという程、使い込んだ案件であるだけに、色んな思い出が詰まっています。特に「あの時、Power Queryに出会っていなかったらその後の人生は・・」とさえ考えたこともあり、何より精神衛生上、非常に悪い結末が待っていただろうと、今振り返ればぞっとするレベルだったと思います。

Power Queryを全社規模に

ここまででお分かりの通り、

追い詰められた人は強くなる

とでも言うべきか、良きリソース(技術書等)さえ入手できれば何とかサバイブできるものです。私の中では今でもミラクルに近い出来事でしたが、この感動を何とか社内に広められないか、成功事例として動き始めました。実施したことは以下2つ。

  • 社長及び経営陣向けにプレゼン
  • 評価部のアナリストを徹底教育

当時、既に社内でExcelのトレーニングを何度も実施してきた経験があったため、社長や経営層向けにこのテクノロジーを活用すべきであることを訴えました。情熱的にアピールできたせいか、しっかりと経営陣にPower Query(BIツール)というキーワードを植え込むことができました。

これと同時に、自分の部署のアナリスト向けにもコーチングを開始しました。アナリストはデータと常に睨めっこをする人たちです。そして、一部の企業にとっては”贅沢品”扱いのDWH環境が導入されていない場合、分析用のデータセットに変換するのは実に難しいプロセスとなります。コーポレートBIを推進される企業は通常DBAやBI人材を有しており、そのような人たちが社内にいれば鬼に金棒ですが、残念ながら世の中の殆どの人はそのような環境で仕事ができるほど、恵まれていません。

Power BIやTableauといったセルフサービスBIが生まれたのはBIテクノロジーの進化やパソコンのスペックが大きく向上したことが挙げられますが、何よりもビジネスユーザーを含むIT職以外の人にBIの力を解放して、目標とする迅速な意思決定や正確なアウトプットを求めるビジネス環境になってきた背景があるためです。

当時英語の資料しかなかったため、最初こそPower Queryはなかなか浸透しませんでしたが、社内用にPower Queryの資料と実例を何回も繰り返してデモを行った結果、評価部の全アナリストが”Powerクエラー”に生まれ変わりました。もはや元のやり方(マニュアルで行う結合)に戻れないほど、Excel Power Queryのインパクトは凄いものとなっていました。アナリスト以外でも全社向けに座学・デモを行った結果、一部の人たちはPower Queryを使えるようになり、2018年に実施した簡単なサーベイによると、ほぼ全ての回答がYesとなりました。


※Q1でNoと答えた人はアシスタントであり、回答として「分からない」であったためNoとして区分

Power Pivotの活用

私自身に話を戻しますと、社内エバンジェリストを務める一方、Excel Power Pivotを活用して評価案件を捌くようになりました。過去の案件でもう一度評価が必要な場合、

以前の自分の分析プロセスを否定

するようになりました。そう、Power Queryを使うほど、スマートファイルはもはや正しいやり方ではなくなってきたのです。これに加え、Excelに内蔵されているExcel Power Pivotが何より使いやすかったのが当時の印象でした。

よく記事特集で”脱Excel"という記事を見かけることがありますが、私からすると”脱帽の脱”として解説すべきと思います。何しろPower BIの前身がExcel Power Pivotであり、Power BIと同じテクノロジーであることから人によってはPower Pivotのほうが使い勝手が良い場合もあります。

Excel Power PivotはPower BIと同じく、Power Queryから処理速度が最も早いメモリ上にデータを読み込みます。Analysis Servicesをベースとしたテクノロジーであるため、複数のテーブル同士でリレーションシップを組み、DAXメジャーを記述して多次元分析を可能にします。多次元分析とは、様々な切り口からスライス&ダイスして洞察を得る分析(「探索的分析」とも言う)であり、テクノロジーがほぼ同じである一方、Excel Power Pivotは特にセルベースの分析とPivotテーブルベースの分析を組み合わせる必要がある場合に威力を発揮します。

Power PivotはデータビューとモデルビューがPower BIにそっくりで、計算テーブルこそ作ることはできませんが、計算列を作ることは可能となります。

Excel Power Pivotで記述するDAX式は「メジャー名 :=」、Power BIは単純に「メジャー名=」と微妙に異なり、どちらか片方に慣れている人がもう片方を使う時に少しイラっとします。なお、Power Pivotでは改行時のオート書式設定がないため、DAX指標を作る場合は結構苦労します(※ フォーマットされていないDAX式はDAXではない by SQLBI)。

ちなみに、グリッドビュー(下図左)にDAXメジャーを記述する場合のメリットは、

  1. 複数のDAXメジャーに対して一括で書式設定を行うことが可能
  2. メジャーをまとめて削除できる

等、Power BIと比較するとメジャーを”ある程度”まとめて管理できるところが便利です。一方、デメリットとして、メジャーグリッド内はセルのようなイメージですが、Excelワークシートでセルの値をまとめて移動できるのとは違い、メジャーをまとめて違うところに移動させることはできません(1つずつカット&ペーストで行うしか方法はありません)。

ExcelピボットからPivotチャートでZチャートをPower BIと同じように作ったりすることも可能で、Power BIよりも書式設定が豊富であるため、チャートをきれいに見せたい場合にはExcelチャートが便利です。

唯一、Excelで作るダッシュボード(レポート)で気になるのがスライサーのパフォーマンスです。Excelで作るスライサーはPower BIのそれよりも反応速度が大幅に遅いうえ、使い勝手も悪く、多次元分析を行うのに適していません。よって、ピボット分析で数字主体のアウトプットはExcel Power Pivot、ビジュアル分析重視のアウトプットはPower BIという使い分けになると思います。

このように、ExcelだけでもBI機能を使って多くの分析を行うことができますが、皮肉なことに、Excelは表集計ソフトという印象が強く残っており、

ExcelもBIツール

であることを多くの人は知らず、それゆえ”脱Excel"という表現にされてしまいがちです。正しくは"with Excel"となるべきであり、Power BIとExcelを一緒に使ったり(Excelで分析)、使い分けが重要となります。

DAX地獄

Power BIを本格的に使い始めたのは2017年後半からになります。この頃から、Power BIの機能がどんどん良くなってきたこともあり、Power BIで作ったレポートのクオリティも上がってきました。それでも当時は多くの時間をExcel Power Pivotに費やしていたので、DAXをPower BIで書くことは殆どありませんでした。理由は、評価業務で最も使用されるのはExcelであり、在庫評価用のテンプレートがExcelであったことと、Power Pivotで分析した結果をリンクで参照するやり方がベストだったためです。

この時期から、自分の中では半分自信・半分疑問という葛藤する気持ちが生まれるようになりました。理由として、簡単な計算ロジックをDAXで解決していく分には問題ないものの、少し複雑な計算ロジックになった場合、DAXは「Dどう・Aあがいても・X無理」という頭文字になってしまうからです。

例えば、合計値と各行の合計が一致しない理由や、メジャー同士を計算させて新たなメジャーを作るもDAXメジャーのパフォーマンスが非常に遅くなってしまう(=最適なDAXの記述法)等、カラクリ(基礎)を知らないと一生同じところをさまよってしまうループに陥っていました。

最適なデータモデル + シンプルなDAX

というルールを知ったのはSQLBIから学び始めてからでした。
※ 余談ですが、SQLBIのサイトは昔、日本人がドメインを取得していたため、今のSQLBIが買い取った模様

ちょうどこの時、自分ひとりの力だと限界があることを悟り、Power BIコミュニティに参加するようになりました。結果的に、これを契機に多くの人と知り合うことができたことに加え、その後の追加努力で自分のスキルを大幅にアップさせることができました。

続いて2018年の夏から外部のお客さん向けに在庫コンサル + BI導入というプロジェクトを担当するようになり、同年11月に米国本社、そしてちょうど同時期マイアミで開催されたSQLBIのDAXワークショップに参加することも許可されました。

DAXワークショップではPower BIの世界では神と呼ばれるMarcoさんと個人的に知り合えただけでなく、自分が半年以上答えを見いだせなかったDAX式を、Marcoさんに直接質問することができ、たったの3分で解決策を提供してくれたことに対する感動を今でも覚えています。

このように、紆余曲折がありながらも苦しみ抜いた結果、上記のBI導入支援を成功させ、2019年からは外部企業向けにBI導入支援という新規ビジネスを社内で始めることになりました。そこで得られた経験をまとめたのが本記事の先頭で紹介した下記ブログであり、Power BI Advent Calendar 2021用に執筆したものです。

Power BIの活用を拡大させるには

個人談としてここまで面白く感じてもらえたら幸いですが、最後は一般論として、Power BIをこれから拡大していこうとした際のことについて簡潔に触れ、終わりにしたいと思います。

冒頭で話しました通り、Power BIはオールインするのに値するテクノロジーです。何かしらの分析業務に携わってきた人、Excelのヘビーユーザーであるほど、その傾向は強いと思います。Excelがなくなることはありえないでしょうし、データがなくなることも考えられないでしょう。

データ活用が国・企業・個人の全てにおいて最も重要であることはDXブームである今の時代では当たり前となっています。そんな中、Power BIをより組織内で拡大させていくためのポイントは何でしょうか?シンプルに以下3つが私の出した結論です。

  1. 経営層によるサポート

  2. IT部門による仕組作り

  3. 業務知識を持つ“パワーユーザー”を起点とした実務への応用

以下、それぞれについて見ていきます。

1. 経営層によるサポート

BIの利用拡大が会社にとって意思決定の迅速化、コスト削減や競争力の向上に繋がることをはっきり意識できることが重要で、そのためには経営層(マネジメント層)によるサポートが必要不可欠です。いわゆるトップダウン・アプローチとなりますが、私のケースで言えばBIテクノロジーの社内布教活動、社長を説得してマイアミDAXブートキャンプへの参加(人的投資)、会社の方針として新規ビジネスに対するチャレンジ等がこれに当たります。

経営層がBIの概念について無知だった場合、社内の有識者による啓蒙活動、いわゆる”リバースメンタリング”を行うことが良い効果となり得ます。世の中多くのツールがありますが、Power BIは特に結果を可視化することに長けているツールですので、経営層が理解を深めるために最も良い条件が最初から整っているわけです。

経営層によるサポートでBIに対する投資が活発化になれば、より多くの人がPower BIを触ることができるようになり、結果的に社内で自然とデータカルチャの形成や成功事例の共有、データドリブン経営というだけで取引先に対するアピールにも繋がり、プラス効果はこれらだけに留まらないでしょう。

2. IT部門による仕組作り

Power BIはセルフサービスBIから発祥した一方、実際にはエンタープライズグレードの全社展開を行う(=スケールさせていく)ためには、やはりIT部門の力が必要になります。下図のように、BI導入のアプローチは総じて3つあり、

① IT部門のコントロールが最も厳しいアプローチ

② IT部門とビジネス部門がお互い得意とする部分を担当するアプローチ

③ ビジネス部門が主体的にBI推進を行うアプローチ

となります。

①は最もIT部門によるコントロールが厳しく、レガシーBI時代の手法となっています。これに対して、③はユーザー主導となることから、シャドーITの制限が一番緩いやり方ですが、個人だけで終わってしまう可能性が高く、全社向けにスケールしにくいことがマイナスポイントです。そのため、企業規模が小さいと殆どの場合、③からスタートする可能性は高くなります。

最後に②ですが、実はこのアプローチが最も目指すべき方向であり、データのオーナーシップはIT部門担当、レポートのオーナーシップはビジネス部門担当、バランス良く適材適所という形で展開して最適解を見つけるアプローチとなっています。通常、データガバナンスを行うのはIT部門となりますので、仕組み作りを行うのもIT部門の責務の1つとなります。

とはいえ、IT部門も他の業務で忙しいため、ここではIT部門とビジネス部門が仲良くなっていけるような仕組み作りを行う必要があります。例えば、社内コミュニティが自発的に作られるようにサポートしたり、技術的な質問を受け付ける窓口を設けたり、自らCoE的なポジションを取って社内のデータカルチャを推進したりするのが良いでしょう。最終的には、エンタープライズBI(IT部門だけで完結するBI)でもなく、セルフサービスBI(ビジネスユーザー主体のBI)でもない

エンタープライズ型セルフサービスBIの構築

を成功させていくことが求められます。

3. 業務知識を持つ“パワーユーザー”を起点とした実務への応用

最後にPower BIで作ったレポートがどのような意思決定に役立つのかについて、レポートをどのように構築すべきか、それから何を得られるのかについて、業務(ドメイン)知識を持つユーザーがプロアクティブに活動していくことが大事となります。

既にスキルを持っており、外部(コミュニティ)で積極的に活動を行う人は俗に“アーリーアダプター”や“エバンジェリスト”と呼ばれる人たちで、自分が何をやりたいかをしっかり分かっている人です。しかしながら、これらの層は恐らく全体の0.1%にも満たないため、その他大多数のユーザーは社内の“パワーユーザー”に付いていく(トレーニングに積極的に参加、社内コミュニティで質問をする、自分で勉強する時間を作る)ことが肝要となります。

ここで”パワーユーザー”というキーワードが重要で、社内からリードしていけるポテンシャルの高い人を募ります。候補者がいれば既に何かしらの形で価値創出を始めているかもしれませんし、社内にそのような人がいない場合は外部有識者を招いて教育したり、外部から直接招聘するのも良いでしょう。パワーユーザーはIT部門・ビジネス部門のどちらからでも構いませんが、可能であれば業務知識を持った人をリーダー(ヒーロー)としてボトムアップ・アプローチ

本質的な問題に回答できるPower BIレポートの構築

と題して、BIの活用拡大に貢献していくと成功の可能性が一気に高まります。「本質的な問題に回答できるPower BIレポートの構築」とは、ビジネス・クリティカルな問題や意思決定を行う人が質問した際、構築したPower BIレポートでそれを回答できるような形としてレポートがデザインされていること等、ここにきてドメイン知識を持つ人を中心に作られたレポートがその威力を発揮できることになります。

また、私の経験則となりますが、自分の業務に直結するようにBIを紐づけられると、新しいスキルを学ぶメリットが高まり、何よりその新しく生み出された付加価値(例:ルーチンワークを▲90%以上削減、他人へコーチングすることで全社レベルでスケールさせて効率化アップに貢献、等)を正当に評価してあげることがBIチームのモチベーションアップに繋がり、会社全体としてより良い方向に向かっていくと期待できます。

教える側のメリットと学ぶ側のメリット

の双方を考慮した仕組み作りが必要になりますが、社内でITスキルに強い優秀な社員は外部でも”引く手あまた”ですので、人事制度(評価システム)の見直しも含めて様々な関係者を入れて議論するのもアリだと思います。

最終的にトップダウンボトムアップが同時に進むことでシナジーが生まれ、会社全体でデータ・ドリブン文化が醸成されると、社員の中でも”心地よい緊張感”が生まれ、気づくとより多くの人がこの”Driven by Data, Powered by Intelligenceなパーティ”に参加するようになるでしょう。

最後に

非常に長いブログとなってしまいましたが、総括すると以下の通りとなります。

  • Power BIの習得を実務に絡めると学習速度が一気に上昇する
  • Power BI or Excelではなく、Power BI with Excelが付加価値を生む(詳細事例は割愛していますが、今後機会があれば)
  • レポート機能に限定されるが、Excel Power Pivotを使いこなせると、Power BI Desktopほぼ問題なく使えるようになる
  • Power Queryは自動集計に際して、最強のセルフサービスETL*1ツールであり、データ集計のニーズがある場合はまずはここからやってみる
  • DAXは難しい。しかし、質の高いレポートを作るためには必ず学ぶ必要がある。英語になるが、DAXの学習は基本的にSQLBI一本でOK
  • 全社規模でPower BIの導入を行うには様々なレイヤーの利害関係を考慮する必要があるが、トップダウンボトムアップを同時に進めていくことが成功への近道となる

今回のコンテンツが少しでもヒントとなってお役に立てればと思います。

*1:Extract, Transform, Loadの略、データの抽出・変換