前回(4/15の記事)はPower BIについて、基礎的なこと(特徴・業界等)を紹介しました。今回はもう少し具体的に差別化要因について見ていきたいと思います。Power BIが他社BIツールと差別化できている領域は以下の通りです。
- ツール費用(無料)
- モデリング機能(データモデル、複合モデル)
- ETL機能( Power Queryによるステップ記録機能で完全自動化)
- 「Excelで分析」機能
- 時系列操作関数の扱いやすさ
- 関数言語(Excelから継承した関数の数々)及びクエリ言語
- 計算エンジン(SSAS Tabularモデルをベースとした強力な分析エンジン)
- Microsoftの他のサービスとの連携
- 1つのテクノロジー(BIとしてのExcel)
- SaaS型BIソリューション
ツール費用(無料)
まず、Power BIが他社BIツールよりも優れている点はツール費用及び運用コストです。Power BIは開発用のデスクトップアプリケーションを使用して、レポートを構築していくのですが、Power BI Desktop(以下、単純に「Power BI」)は無料で使用することができます。他社BIツールの多くが試用版(期間限定でフル機能を使用可能、あるいは一部制限付きで無料試用可能)であるのに対して、Power BI Desktopは一切の制限がなく、フル機能を無料で使用できるため、非常に魅力的であると言えます。
無料で使用できる理由はいくつかありますが、主に以下がポイントだと思われます。
- Power BIが本格的に登場したのが2015年、セルフサービスBIの世界では後発
- セルフサービスBIのパイオニアはTableauやQlik等であり、カスタマーベースを増やすための戦略
- MicrosoftはSaaS型*1ビジネスモデルに転換しており、Power BIではツールそのものではなく、サービス(Power BI Service)を利用してもらうことで売上を伸ばす戦略
- Power Platform(下記記事参照)のパッケージの1つとして、他のサービスとのシナジーをもたらす為の戦略
- MicrosoftのOfficeアプリケーション(特にExcel等)を導入している企業向けに、ツールを無料で提供してもサブスクフィーで莫大な利益を上げることが可能
等、上記以外にも理由はあると思いますが、ツール費用を無料にすることでPower BIの普及を最優先させたかったのではないかと推測できます。
Power BI Serviceは、Microsoftが提供するクラウド型BIソリューションであり、
Power BI Desktopで開発
↓
Power BI Serviceにレポートを発行
↓
チーム内・外部との共有等
という流れになります。
Power BI Service
Power BI Serviceは月9.99ドル/アカウントという破格の値段で利用でき、私が知る限り、競合他社が提供するクラウド型BIサービスよりも圧倒的に安い料金設定となっています(※ライセンスの詳細については、本記事の一番下にあるPower BIのサポートチームによるブログが最も参考になります)
上記はPower BIサービスのプラン別料金(税抜)であり、Power BI Proアカウントが1,090円/月2023年4月時点では税抜き1,250円/月、PPU(Premium Per User)が2,170円/月税抜き2,500円/月、PPC(Premium Per Capacity)が543,030円/月税抜き624,380円/月となります。
Power BI ProとPPUの値段がほぼ同じで、PPCだけ異様に値段が高い理由は前者の2つはユーザー1人当たりの値段、後者は容量ベースの課金であるためです。分かりやすく言い換えると、前者は規模が比較的小さいビジネス、後者は利用ユーザーが多いプランとなります。
各プラン別に提供されているサービス内容については上記リンクを参考にして頂きたいのですが、無料アカウントでは使用できない機能が多く含まれています。サービス内容については、別記事で詳述しますが、Proアカウントの場合、特に以下のメリットを得ることができます。
プラン選びのコツ
Power BIはツール費用が無料であるため、レポートを共有しない環境であったり、AppsやExcelで分析等の機能を使用しないのであれば、Power BI Freeのままでも構いません。その場合、最大のコストが「学習コスト」であり、本ブログで紹介しているPower Query、Data Model / DAX等がこれに当たります。
一方で、Power BIを導入する場合、社内でセキュアにレポートを共有することがビジネスニーズとして存在するため、ProアカウントやPremiumアカウントの取得が必要となる場合も多いと思います。そこで、上記プランについて、ビジネス規模(ユーザー規模)別に、ざっくりと選択する場合のヒントを下記に記載をしておきます。
まず、一番最初に考慮すべきは、
Power BIのレポートを使うユーザー数が何人か
となります。
ぶっちゃけた話、この質問に答えるだけでアカウントの種類を決めることができるようになります。
例えば、会社でBIレポートを作成できる人(以降、「開発者」)が1人だけである場合を考えてみると、上記の機能を使うのであれば、開発者用にProアカウントを申請する、ということになります。同じ状況で、例えば開発者が1人、開発者が作ったレポートを見て、いろいろ分析を行う3人がいた場合、Proアカウントは4名(開発者1名+レポートユーザー3名)で申請することになります。これは、レポートユーザーが開発者のPower BI Serviceに発行されたレポートを閲覧するためには閲覧権限が必要で、この権限は同じProアカウントでないと付与されないためです。
上記の例は開発者とユーザーが別々の作業環境でレポートを共有するための話ですが、例えば上記3名のレポートユーザーはTeams会議の時にだけ、Teamsの共有機能で画面越しにレポートを見る必要がある場合、Proアカウントは1名(開発者用)だけで済みます。
もう一つ、例を挙げてみます。社外とチームを組んでBIレポートを共有する必要がある場合、自社のO365のテナントと違う環境となってしまいます。その場合でも外部のチームとPower BIのレポートを共有することができますが、外部チームでレポートを共有したいアカウントもProアカウントである必要があります。
ここまでの説明でお分かりの通り、
上述裏技を使用しないで共有をするのであれば、Proアカウントは自分と共有側の両方で必須
ということになります。
PPUとPPCのケース
PPU(Premium Per User)はMicrosoftが2021年4月初旬に発表した新プランであり、Power BI Proの全ての機能をカバーしつつ、Premiumな機能も付随するプランとなります。PPUはPower BI Proのアドオン(追随)サービスであり、Power BI Proを持っていれば、Power BI Proの料金にプラス10ドルで利用できるものとなります。すなわち、PPUだけを利用する場合、2,170円/月2,500円/月必要となりますが、Power BI Proを持っていれば、同じ料金でPPUを利用できることになります。
PPUで最も魅力的な機能は、「モデル サイズの制限」や「更新レート」「高度な AI 」機能の利用、「データフロー」(計算されたエンティティ、リンクされたエンティティ)等ですが、特にモデルサイズの制限やデータフロー(クラウド版ステージングクエリ。ステージングクエリについては下記参照)等が大きな魅力であると言えます。
一方で、PPC(Premium Per Capacity)はユーザー数が数百人規模の場合に利用するプランであり、543,030円/月624,380円/月を1,090円/月1,250円/月で除算して得られた数字(498人)が目安の1つとなります。すなわち、単純に価格だけで比較するならば、498人までならPower BI Proを使ったほうが安い、ということになります(当然ながら、プレミアム機能を加味した場合、価格だけで比較すること自体意味がありません)。また、PPCは金額が高い分、作ったレポートは社内・社外向けのどちら向けにもセキュアな環境で共有できるため、Proアカウントを持っていない人でも無料で閲覧することができるようになります。
が、実はここには大きな落とし穴があり、PPCは上述のメリットはあるものの、Pwoer BIで作ったレポートを発行するするためには、Proアカウントが最低でも1つ必要になるのです。上記価格と機能が掲載されたサイトで、PPCの「共有およびコラボレーションのためのレポートの公開」に○が付いていないのはこれのことになります。
従って、PPCを利用するためには、
Proアカウント(1,090円/月)× 開発者数 + 540,030円/月
Proアカウント(1,250円/月)× 開発者数 + 624,380円/月
が正しい計算となります。
最後に、より詳細な情報が知りたい場合は、下記MicrosoftのPower BIサポートチームによる公式ブログが非常に参考になります。
まとめ
- Power BI Desktopは無料でフル機能を使用可能
- Power BIの差別化要因の1つは価格体系であり、他のBIツールよりも安いことが魅力的
- Power BI Serviceには3つの料金体系があり、ProとPPUはユーザーレベル、PPCは容量別の料金プラン
- ビジネス規模が小さい場合はProとPPUを利用。ProとPPUの違いはプレミアム機能が付いているかどうかであり、PPUは機能性を求める上級者向けのプラン
- PPCを利用するのはユーザー規模が大きい場合。企業規模が大きく、BI導入による費用対効果が高い場合は、PPCを活用することがコスト低減につながる
Power BIの料金体系は非常にシンプルで分かりやすいのですが、それぞれのプランで機能が異なっており、全ての機能を理解するまでに時間が必要かもしれません。今回は簡単に料金プランについて説明しましたが、次回はモデリング機能について、解説をしていきたいと思います。