テクテク日記

テクテク=テクノロジー&一歩ずつ(テクテク)

Power BI導入拡大のためのヒアリング及びプロセス

今回の記事は、過去のビジネスインテリジェンス(BI)の導入経験に基づいて執筆しました。読者層は主に社内のBI推進部門BI導入を支援するベンダー、そしてMicrosoftの営業チームも想定しています。

Power BIの日本市場について

実際、Power BIのMAU(Monthly Active Users: 月間アクティブユーザー数)の成長率をグローバルで見ると、日本が最も成長率の高い市場です。絶対数では海外に及びませんが、浸透率が低いため、まだまだ伸びしろが大きいと言えます。

詳細は別記事にしますが、Power BI MAUをExcel MAUで除算した数値(PBI vs Excel MAU比率)はグローバルの半分未満(例: グローバルが10%だとした場合、日本は5%未満)であり、日本ではまだまだExcelユーザーが多く、Power BIの普及度が十分ではないことを示しています。

Microsoft Fabricの登場により、今後はグローバルでFabricの導入が進むと期待されます。Fabricの一環として位置づけられるPower BIは、今後ますます重要な役割を果たすことになってきます。なぜなら、Fabricの導入は、すでにPower BIを使い慣れた企業にとって、比較的取り組みやすいエントリーポイントとなることが期待されているからです。

BI導入サポートの確認プロセス

BI導入を検討しているけれども、どのように始めれば良いか分からない場合、以下のポイントをヒアリングというプロセスで把握できると良いと思います。なお、ヒアリングやアプローチの方法はサポートを提供する企業や個人によって異なりますので、今回ご紹介する内容はあくまで一例としてご参考ください。

まず、当たり前ですが、何よりも重要なのが「データ戦略の有無」を確認した上で

マネジメント(経営層)によるサポートの有無を確認

することです。経営層でなくとも、BI導入に際して予算を持つキーパーソンの意思によって、ここで話が先に進むかどうかが決まってしまいます。

ヒアリングとは、過去・現在・未来の3つの時間軸に基づくものであり、「データ戦略の有無」というのは未来の方向性からスタートすることになります。この点は極めて重要であり、双方の関係者が時間を無駄にしないためにも、最初に把握しておくべきポイントと言えます。

「データ戦略」がなく、「マネジメントによるサポート」もない場合、BI導入そのものが困難になるかもしれません。そういったボトルネック(例えば、経営層が取り組みたがっていない、または予算の問題など)を特定し、解決に向けて進めることが重要となってきますが、今回は「現状確認」に進められる状態であると仮定し、話を進めていきます。

ヒアリング事項

ヒアリングを開始する前に、BI導入のアプローチについて把握しておくことが重要となります。下図は何度も使用しているものですが、過去記事を参考にして頂くと良いでしょう。

アプローチとしては3つあり、それぞれ以下の通りになります。

① IT部門のコントロールが最も厳しいアプローチ

② IT部門とビジネス部門がお互い得意とする部分を担当するアプローチ

③ ビジネス部門が主体的にBI推進を行うアプローチ

今回のヒアリングはこれらのアプローチを基に進めていきますが、目指すべきは②であることを認識していただきたいと思います。

Q1. Power BIの導入推進を全社的に行うキーパーソンは誰か?

グループ全体、IT部門、ビジネス部門、経営企画等から確認を行います。もしペルソナが特定できていない場合、Power BIを推進するための主導者を会社がまず選出することを提案します。その後、会社自体がこれらの部門の関係者全員(Power BIに関する認識の違いなど)に対してヒアリングを行います。

Q2. 現在、社内のBI環境は上図の①~③のどれに当てはまるか?

この質問は、BIを導入していない企業に対しては適用できないかもしれませんが、仮にBIが導入された場合を想定して質問することも検討できます。また、回答が『②』である場合、すでに成功事例がある可能性があるため、さらなる高度な支援が必要になるかもしれません。

Q3. 方針として全体的に活用ユーザーを増やしていくことで間違っていないか?

この質問は、明確なデータ推進方針がない場合でも、上図の『①』や『③』の状態でPower BIの推進を進めていきたいかどうかを尋ねるものです。

Noの場合: ①のIT主導型のBIを推進している可能性があり、その場合、ユーザー数の拡大が唯一の目標とは限りません。こうした状況では、現場のニーズとの一致を確認する必要があります。現場の担当者がPower BIを積極的に利用している場合、その声を取り入れることが重要です(ただし、顧客の内部事情により、第三者の介入には限界があることを留意する必要があります)。

Yesの場合: ユーザーの増加を妨げている要因は何か?以下に、いくつかの可能性をリストアップしておきます。これらの要因を確認するために、顧客と更にヒアリングを行います。

原因確認

様々な原因が考えられますが、詳細に見ていくこととします。

  1. 適切なスキルを持った人材が不足している(戦略的または技術的な面で)
  2. 他社ツールを使用中
  3. データが整備されていない
  4. ユーザー周りの問題
  5. ユーザーによる不満
  6. 活用事例が欲しい
  7. ガバナンスポリシーによる制限
  8. 特定のユーザー以外でレポートの使用率が低い
  9. コミットメント不足
  10. その他

1の「適切なスキルを持った人材が不足」についてはプロジェクトリーダーとテクニカルリーダーの両方を特定します。社内で各役割を決定し、プロジェクトリーダーが実行者やその他のパワーユーザーを選定し、外部リソース(パートナーやMVP、トレーニング専門企業・サイトなど)を活用して内部の能力を強化していきます。プロジェクトの進行スピードに関する確認も重要で、現状から将来の目標へのロードマップを策定していきます。

2の「他社ツールを使用中」は難しい問題ですが、Power BI以外のBIツールを使っているため、まずはMicrosoft Power BIが介入できる余地があるかどうかについて話し合う必要があります。顧客の内部事情により、Microsoftの関与できる範囲には限界がありますが、以下の点について確認し、Microsoftの他の製品との調和を考慮して、中長期的にどのような状況を目指したいかを検討します。

異なる部署、チームが別々の使いやすいツールを使用することが許容できる場合、話は速いですが、担当者が「今後はPower BIに絞っていく」と回答がある場合は期待が高まります。

3の「データが整備されていない」というのは多くの企業で最も悩ましい理由の1つであり、克服すべき課題です。

Microsoftの製品に対するコンサルティングを行うことが可能であればそのスキルを活用して、販売チャンスを創出することができるかもしれません。IT部門がオーナーシップを持っている可能性が高いため、BI導入に際してのデータアーキテクチャの提案を行います。

データ整備は自助努力と外部パートナーとのプロジェクトチームで進めていき、データ整備が完了した後の展開が不透明な場合は、「BI導入のアプローチ」の概要図にある②の「管理型セルフサービスBI」を目指す上でのアプローチを検討してもらいます。通常、このパターンでは、各ビジネスユニットごとにデータのオーナーシップを持ち、ある程度自由にデータを取得できる環境を整備すること(データメッシュ的な考え方)が推奨されています。データメッシュについてはMicrosoft Fabricとの相性が良く、こちらの記事(英語)でそれを実現できます。

4の「ユーザー周りの問題」には理由はいくつかありますが、主なものを以下に挙げます。

  • Power BIが利用可能な環境であっても、Power BIについての知識が不足している
  • ツールへの認知度や興味の欠如
  • IT部門とビジネス部門のコミュニケーション不足(例: IT部門やPower BI担当部署からの積極的な情報提供が不足しているケース)
  • 社内のデータカルチャーの未浸透
  • 日常業務の多忙さによるユーザーの時間的制約
  • 社内研修プログラムの不足
  • Power BI利用のメリットに対する認識の不足
  • 異なる業務による個人のPower BI利用に関するインセンティブの差異

これらの問題は、ユーザー関連の要因や情報に対する認識の違いに由来するものです。各企業に固有の理由もありますが、情報を持つ側が積極的に情報を共有しない限り、解決が難しいと考えられます。このため、関係者がオーナーシップを持ち、会社のデータ戦略をしっかり伝えられるよう、具体的なシナリオやKPIを明確にしておくことが重要となります。データ活用推進部隊(CoEやBICC等)が社内で必要な理由がこれに当たります。

5の「ユーザーによる不満」ですが、いくつか原因があるはずです。例えば、

  • 現在、Power BIを利用しているが、使い勝手が悪く、十分なサポート体制が整っていないため、従来の手法に戻っている

このようなケースである場合、社内でサポート体制を整備するための取り組み(Teamチャネルや窓口の設置)を確認します。一方、a) セルフサービスBIを構築するケースが多いのか、それともb) レポートの閲覧が主体なのかを確認します。

前者の場合、ユーザーが主にレポートの作成を行っていると考えられますので、正しいモデリングやベストプラクティスを実現できていない可能性があります。この問題を解決するため、積極的に該当するリソースの共有、社内及びMicrosoftによる無償トレーニング、更にトレーニングパートナー等のリソースを活用していくと良いでしょう。

後者の場合、主にレポートの閲覧が多いと推測されますが、それでもレポートが十分に活用されていない可能性があります。ここでは使い方の問題なのか、それともレポート自体が使いにくいのかを特定し、レポート自体の改善(例: 中央管理されているレポートの場合、クエリパフォーマンスが高く、ビジュアルデザインに優れたレポートへ作り替える、等)並びに関連するトレーニングを強化します。このケースでは、Power BIレポートを閲覧しているユーザー数を基に社内で優先順位をつけ、最もボトルネックとなっている部分を特定して問題を改善していきます。

6の「活用事例が欲しい」というケースでは、本格的な活用に先立ち、他社の事例やベストプラクティスを収集し、自社のデータカルチャを向上させたいという願望があるかもしれません。運用やレポートのデザインなどを参考にして、より良いデータカルチャを築いていく考えもあるでしょう。この場合、自分の業務をPower BIに置き換えたら、どのような変化が起こるかをイメージすることが重要です。少しサンプル的なものですが、下記レポートを参考に考えてみると何かヒントが得られるかもしれません。

また、Power BIのコミュニティへ参加したり、以下のように他社がPower BIを活用する事例を入手することも手となります。

7の「ガバナンスポリシーによる制限」ですが、データへのアクセスが制限されており、都度IT部門が対応する必要があるケースが想定できます。ガバナンスとセルフサービスはトレードオフの関係にあり、ユーザーを自然に増やすための戦略が求められます。たとえば、トレーニングメニューやPower BIレポートの適切な使い方や作成方法に関するコーチングなどの施策を検討することが考えられます。

Power BIの普及を進める際には適切なコントロールを維持することが重要です。さもなくば、Power BIは使いにくいツールとみなされてしまう可能性があるため、慎重なアプローチが必要です。会社と会話する立場の側から、会社側がこの問題をどのように解決したいかを考えるように促していきます。

8の「特定のユーザー以外でレポートの使用率が低い」ケースは、以下のようなことが考えられます。

  • レポートが魅力的でない
    レポートのデザインや見栄えが十分でなく、ユーザーを引きつける要素が不足している可能性
  • クエリが遅い
    レポートのデータ取得に時間がかかり、ユーザーが情報を得るのに待たされている状態
  • 情報伝達の効率性が低い
    書式設定等が原因で、レポートのビジュアルがわかりづらく、情報が伝わりにくい
  • 付加価値が分からない
    レポートがユーザーにとっての価値や利益を明確に示していないため、ユーザーがそのメリットを感じ取りにくい状態
  • 自分用のレポートのみ
    ユーザーが自分用のレポートのみを作成しており、他のユーザーにとって関心が低い可能性
  • ユーザーのニーズを把握していない
    レポートを作成する際にユーザーのニーズを正確に把握していないため、ユーザーの期待に応えられていないケース

これらの要因を特定し、改善策を考えることで、レポートの利用率を向上させることができると考えています。たとえば、魅力的なデザインやビジュアルを導入したり、クエリの最適化を行ったり、ユーザーとのコミュニケーションを強化して、ユーザーのニーズに合ったレポートを作成することが考えられます。

ビジュアルデザインについては下記を参考にして頂くと良いでしょう。
www.docswell.com

9の「コミットメント不足」は辛辣な表現ですが、”何となく広めることに頼る考え方”はリスクがあります。この場合、戦略的なアプローチが不足している可能性がありますので、前述した各項目を基に、誰がどのように企業側の担当者をサポートし、適切な戦略を構築していけるかを確認していくことが肝要となります。

最後の10は「その他」ですが、例えば、会社のポリシーによりクラウド上でのデータ保持が許可されず、高いクエリパフォーマンスが期待できるインポートモードが利用できないため、結果的にDirectQueryモードを使用せざるを得ない状況が生じ、それが一部のユーザーによるレポートの利用を制限してしまうケース(反応の遅いレポートはユーザーをイライラさせ、利用率を低下させてしまう)が考えられます。このような事態に至る理由は、「政治的な問題」や「昔からの習慣が根強い」などが背景にあるかもしれませんので、根本的な問題について話し合う必要があります。

定量的な質問

Power BIの導入が進まない理由は様々ありますので、これらの理由を把握するために担当者への十分なヒアリングが非常に重要です。逆に言えば、これらの質問に全て回答できた場合、BI導入および普及のハードルが一気に下がります。最後に、定量的な質問も加えることでより効果的です。

1. 全体のポテンシャルユーザー数は?

会社で確認できるPower BIの全体の数値(例: Microsoft 365 E5の購入数、等)を把握し、実際に展開している部署からヒアリングを行います。また、RESTAPI等を使用して様々な情報を取得するのも良いでしょう。

marshal115.hatenablog.com

Power BIの利用率を特定する方法はいろいろありますが、下記Microsoftのサポートチームが書いたブログや公式Docsが役に立つでしょう。

jpbap-sqlbi.github.iolearn.microsoft.com

可能であれば各部署ごとのユーザー数や活用状況を把握しておきたいところです。部署の人数や担当者に対してヒアリングを行い、現状を把握するためにテレメトリーを使用してレポート数やデータセット数などを確認することも重要でしょう。セマンティックモデル等のワークロードについては、下記Fabric Capacity Metrics Appをインストールしておきましょう(Power BI Premium容量が必要)。

learn.microsoft.com

2. 部署別の違いを明らかにして、ヘビーユーザーがいる部署とそうでない部署の違いは?

ここで重要なポイントは以下2つ。

  • 営業や製造などの部署が高い利用率を示している可能性がありますが、特に利用率の高い部署同士を比較し、目標とする状態とのギャップを確認
  • また、既存の成功事例がある場合は、その成功を起点にして他の部署への展開が可能かどうかを検討

これにより、社内で他部署の利用が起爆剤となり、全社規模でBIが浸透しやすくなる環境を作っていくことができるようになります。

3. PBI vs Excel MAUの比率を算出

前述したPower BI MAU ÷ Excel MAUの比率ですが、Excel MAUはほぼ社員数と同じと仮定し、それを前提にPower BIを実際に使っているユーザーが占める割合を算出します。Microsoftは全てのOfficeユーザーにPower BIを使ってもらうことを目標としており、以下の4つを軸として今後はPower BIをポジションニングしています。

規模によっても異なるので一概には言えませんが、Power BI MAU ÷ Excel MAUが二桁以上であれば非常に喜ばしいと考えて良いでしょう(例: 100人規模の会社で10人がPower BIを使っているような状況)。

4. Power BI Proのライセンスが宝の持ち腐れになっていないかどうかの確認

Microsoft E5には通常1,250円/月(税抜き)かかるPower BI Proライセンスが無料で提供されています。多くの企業がE5を保有しているため、Power BIを無料で利用できる環境が整っています。このE5の利用率が増えており、多くの相談が寄せられていますが、貴重な機会を無駄にしないためにも、データ活用の初歩を踏み出すことが肝要です。

5. IT部門によるPower BIを活用した際のメリット

Power BIを活用することがどのようなメリットをもたらすか、という部分について、以下のように試算することも可能でしょう。

レポート数 × 節約時間 × 人件費 = 年間のコスト削減効果の算出

レポートの構築にはセマンティックモデルが必要ですが、重要なのはセマンティックモデルがない場合には得られなかったであろう、”データ分析基盤による意思決定の向上”を考慮することです。

BIツールの活用に関する一般的な観点から言えば、Before vs Afterの比較を十分に行い、意思決定者が得られる環境が「即座に回答を得られる」かどうかを注視し、その利点と欠点を相対的に評価し、付加価値を最大化することが重要です。

最後に

今回ご紹介したヒアリングプロセス自体は難しいものではありません。重要なのは、顧客が直面している困難を洗い出し、それぞれの問題について質問する際に準備をしておくことです。

  1. Power BIの導入の実現可能性を評価(マネジメントのサポートの有無、予算など)
  2. 1の結果をもとに追加ヒアリングを行い、現状を把握(BI導入アプローチの概要図を作成)
  3. 過去・現在・将来の3つの軸で会社に最適な戦略を描き、詳細な部分での課題を特定し、解決策を見つける

このような段階的アプローチでヒアリングを行うことで、最終的に問題点と今後の進むべき方針が明確になってきます。