テクテク日記

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Power BIのトレーニングと対象者について

Power BIを導入している企業にとって、その後のトレーニングについて悩むことは一般的です。特に大規模な企業では、トレーニングプログラムを検討し、社員に対して効果的かつ効率的に提供する必要があります。本記事では、Power BIのトレーニングに焦点を当てて考察してみます。

対象ペルソナ

Power BI を適切に使用し、ベストプラクティスを適用するようにユーザをトレーニングすることは、価値をより迅速に提供し、レポートやセマンティックモデル*1の開発者がガバナンス基準を遵守するのに役立ちます。トレーニング要件を定義しやすくするために、トレーニングのカテゴリー分けが必要となります。

Power BIを活用される対象ペルソナは主に下図のようになるかと思います。

多くのペルソナがいますが、重要なことは

Power BIを活用する全ての層に対してトレーニングを行う

ことです。導入拡大のヒントについては別記事で紹介した通りですが、組織がPower BI(Power BI ProMicrosoft 365 E5Power BI Premium等)を組織で購入した場合、利用率を最大化させるためにトレーニングを実施することが不可欠です。

レーニングの観点から考えると、誰をどのように教育するか、誰がトレーニングを実施するかを検討する必要があります。大事なのは、異なる役割に対して異なるトレーニングが必要であるという点です。以下では、各ペルソナの特徴とそれに適したトレーニングについて説明します。

データ消費者

「データ消費者」は、他の人が作成したレポートを表示し、それを活用する人々を指します。特に大規模な企業では、このグループが主要であることが多いでしょう。彼らはトレーニングの負担が比較的軽いグループと言えます。Power BI Serviceを使用してレポートを操作しますが、トピックはログイン方法、コンテンツの検索方法、レポートやダッシュボードの開き方、Power BIレポート/ダッシュボード上のツールバーの使用方法、レポートのページ間の操作、ボタン、ブックマーク、スライサー、フィルターなどが対象となります。

このグループに最適なトレーニング方法は、ビデオコンテンツやトレーニングマニュアルですが、ライブでのトレーニングは人数が多いため、コストがかかります。ただし、特定のレポートやダッシュボードに焦点を当てて、一部の消費者に対する特別なトレーニングを行う場合には、ライブセッションを実施することも考えられます。特に、データ分析などを含む特定のレポートに関しては、ライブセッションが適しているかもしれません。

レポート開発者

「レポート開発者」は、他の人が作成したセマンティックモデルを活用して、レポート作成に専念する社内の人々を指します。彼らはモデリングを行わず、代わりにPower BIのセマンティックモデルを使用して(ライブ接続などで)レポートを作成します。このグループは通常「ビジュアルデザイナー」と呼ばれ、可視化、ストーリーテリング、発行、共有などに関するトレーニングが必要です。ライブセッションが効果的なトレーニング方法であり、ウェビナーも有効です。さらに、オンデマンドのビデオコンテンツを提供することも有効ですが、ライブセッションは高い効果が期待できます。

ビジュアルデザインについては、日本ではPower BIを活用される企業からのニーズが多く、私も何度か個別にレポートの作り方、気を付けるべきポイント等を共有したことがあります。直近は九州のPower BIワークショックで下記を共有しており、参考にして頂ければと思います。

なお、公式ドキュメントでは以下のラーニングモジュールがお勧めです。

learn.microsoft.com

ただし、レポート開発者になることには、いくつかの障壁が残る可能性があります。以下はその理由です。

  1. モデルの理解:
    レポート開発者がモデルを作成しない場合、モデルの内容や使用可能なデータ要素、用語の意味を理解するまで時間がかかることがある
  2. レポート作成に時間が掛かる:
    レポート開発者は、ユーザー部門との連携が非常に重要であり、特定のニーズに合わせたレポートを作成するために時間がかかることがある
  3. 新しい指標の要求:
    新しい指標が必要な場合、モデル開発者にリクエストを送る必要があるため、時間がかかる場合がある
  4. ユーザーとモデル開発者の間での調整:
    ユーザーが望む指標をモデル開発者がスムーズに作成できない場合、またはできたとしてもパフォーマンスに問題がある場合など、ユーザーとモデル開発者の間で調整が必要になる可能性がある

これらの要因により、レポート開発者には課題が残ることがあり、効果的な協力とコミュニケーションが重要です。

モデル開発者とレポート開発者が同じ人である場合が最適であると言えますが、モデル開発者はベストプラクティスに従いつつも、DAXの構築を含むモデリングに時間がかかることがあります。最適な指標を作成するまでには学習と実践が必要です。一方、レポート開発者はセンスが問われ、エンドユーザーに寄りすぎる傾向があることがあります。

最良の解決策は、対象者がモデル開発者、レポート開発者、およびエンドユーザーの3つの役割を兼ねることです。このようなユーザーは通常「パワーユーザー」と呼ばれ、育成には時間とコストがかかります。お察しの通り、この役割の兼務は会社の規模、個々のやる気や興味、業種(データの取り扱い量や方法など)、業務の要求度などに左右されます。そのため、このようなユーザーが組織内にいる場合、彼らを起点として、IT部門と協力してデータ戦略を策定することが賢明でしょう。

Power BIモデル・レポート開発者

「Power BIモデル・レポート開発者」は、最も専門性が必要とされるグループであり、セマンティックモデルとレポートの両方を作成できるスキルを持つ人々を指します。通常、これはパワーユーザーまたは開発者と呼ばれる人々で、データの取得と変換(ETL)、データモデリングDAX式を使用したメジャーの作成、セキュリティ、データの更新、レポートの作成など、さまざまなスキルを必要とします。このグループの多くは既に高いスキルを持っている場合がありますが、新たなスキルを習得しようとする意欲のある人に対して、ライブセッションのトレーニングが最も効果的でしょう。ライブセッションでは、深い知識が必要な場合があるため、スキルセットの高い人がサポートすることが重要です。ただし、このグループの人々は学習意欲が高いため、オンデマンドビデオやYouTubeなどのリソースも効果的です(おそらく自発的に情報収集を行っているでしょう)。

最初は講師がいるトレーニングが適している場合もありますが、講師のスキルが非常に高い場合、その講師が行うビデオトレーニングのほうが効率的かもしれません。

なお、開発者やレポート消費者には、ドメイン知識に関するトレーニングが必要になる可能性があります。これには、ビジネスロジック商流の理解、ビジネスへの洞察、モデリング用データの内容に対する理解、必要なデータ項目と不要なデータ項目の識別などが含まれます。ソースデータ分析を行うことは不可欠であり、ビジネスにおけるデータの価値を最大限に引き出すために重要となります。

Power BI管理者

Microsoft 365において、「Power BI管理者」のロールを担う人は非常に重要です。トレーニングの内容には、管理者の役割に対する理解、管理ポータルでのナビゲーション、セキュリティ、ユーザー管理、データ管理などが含まれます。このような役割を担う人は通常少ないことが予想されますので、トレーニングはライブセッションで行うことが望ましいでしょう。また、公式ドキュメントを継続的に学習することも重要です。

Power BI管理者の役割は、Power BIプラットフォームの適切な管理において非常に重要ですので、適切なトレーニングを提供することが必要です。

その他アイデア

Power BIの導入率を引き上げるためには、異なるペルソナに合わせたトレーニングが重要です。個人の意見として、まずは複数のパワーユーザーを発掘または育てることが非常に重要だと考えます。これらのパワーユーザーを中心にして部署内でエバンジェリスト的な役割を果たし、定期的な勉強会を開催することが効果的です。そして、勉強会を実際の業務に直接関連させることが重要です。業務に直結するトピックを取り上げることで、参加者のモチベーションが高まり、学習意欲も向上するでしょう。

さらに、モチベーションを維持するために、パワーユーザーとして活躍した人々に対して適切な評価を行うことが重要です。モチベーションが続かない場合、個人の取り組みが制限される可能性があるため、人事評価システムの見直しを考えることができます。モチベーションを保ちつつ、Power BIの導入を促進するために、組織全体で協力する必要があります。

通常のユーザーに対して、勉強会への参加が一つの指標で「ユーザーとして一人前」と考えないように強調することも重要です。勉強会はあくまで「きっかけを提供するもの」であるべきであり、単に参加しただけで完了と考えず、何度も同じ勉強会に参加することが目的となることを防ぐ必要があります。参加者には、勉強会を通じて学んだ知識やスキルを実際の業務に活かすことが重要であることを強調すべきです。

誰へトレーニングを行うのか

Power BIのアクティビティ/監査ログは、誰が何にアクセスし、誰が何を変更または削除したかを追跡できる重要な情報源です。監査ログは、Microsoft Purview コンプライアンス ポータルの一部で提供されており、

Fabricテナント設定の中で「監査と使用状況の設定」をONにすることができます。

Power BIを利用する全てのユーザーに対してトレーニングを行うべきであると冒頭で言及しましたが、時には、製品を使用する前にトレーニングを提供することが望ましい場合もあります。つまり、Power BIをライセンス保持者が使いこなすために、トレーニングが必要ということです。

Power BIを使用しているユーザーの情報は、Power BIのアクティビティログから取得できます。一方、Power BI Proライセンスを持つユーザーの情報は、Microsoft 365 APIを使用して取得できます。新規ライセンスを持つユーザーに対してトレーニングを提供するために、Microsoft 365 APIから取得したライセンス情報を保存しておくことが重要です。同じユーザーに何度もトレーニングを提供する必要はありませんが、新たなユーザーやライセンスを持つユーザーに対してトレーニングの機会を提供することが重要です。

最後に

レーニングに関する状況は企業によって異なり、トレーニングが必要だと認識している企業から、気付かない企業、トレーニングへの投資を無駄だと考える企業、時間が取れない企業などさまざまなケースが存在します。しかし、重要なのは、トレーニングを行わなかった場合、1年後にどのように状況が変わるかを考慮することです。

個人の経験からすると、トレーニングは将来の業務を効率的にこなすための投資であり、私の場合、その成果が確実に現れていました。しかし、一般的にはスキルが上がると業務が増加することがあるため、このような状況に対処する必要が生じることもあります。これは単に自身の問題ではなく、組織全体の課題となる可能性があります。従って、周りのレベルに合わせるのではなく、周りを引き上げていく仕組みを変える必要が出てきます。現在の状況から将来の状況を予測し、それに対応するために経営層にアプローチすることが重要です。

経営層に訴える際、トレーニングとその結果が会社全体にどのようにプラスに影響するかを説明し、組織全体でのプラス効果を強調することが大切です。一方、ご自身が経営層である場合は、この理論を活用して組織内での仕組み改善を始める一歩を踏み出すことが重要です。結局のところ、トレーニングとスキル向上は組織全体にとって価値のある投資であると認識されるべきです。

*1:*データセット